ふかふか団地ブログ

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2018年11月25日(日)第二十七回文学フリマ東京に参加予定。
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フリクリ オルタナの解釈が間違っていたっぽい話

フリクリ オルタナ』を観ました。

フリクリは好きな作品なんですけど熱狂的なファンでないので楽しく観ました。主にオチの話をしたいと思います。めんどくさいので細かいところは省略します。

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カナブンのスマホは画面がバキバキです。これはカナブンを取り巻く関係性に当初からヒビが入っていることを表すと同時に、ヒビが入っていてもそれを使い続ける、すなわち現状を維持したいというスタンスを暗示しています。カナブン自身も「ずっとこのままが続けば」ということは劇中しばしば言及しています。

そして、ヒビが入っている彼女たちは、ハル子が訪れたことで(あるいはMMが動こうとしたことで)順繰りにそのヒビを確認することになります。ヒジリーは恋愛、モッさんは夢というところで立ち位置が変わる。けれどカナブンとの距離は離れない。

ペッツは、カナブンとの距離・関係性そのものがヒビに当たるものでした。小学生の頃、ペッツのことを話しかけてくれた最初の友達だと思っていたカナブン。しかし、カナブンはペッツのプライベートを何も知りませんでした。ペッツが政府高官の娘であること、自室が殺風景なこと(そしてそれは親の抑圧であること)、唯一といっていい飾りものがカナブンとペッツが映っている写真であること。そして、ペッツはカナブンの立ち居振る舞いを内心疎ましく思っていたことを吐露します。

ペッツがカナブンのことを見下していたのは明らかです。カナブンの回想で、ペッツとの出会い(人間関係的な意味で)はペッツがカナブンを見下ろして、ペッツから話かけており、そしてカナブンは一人ぼっちだったからです。ペッツも一人ぼっち、自分と同じ奴がいる。

「なんで声かけちゃったんだろ」ペッツの独白からは、カナブンへの愛憎半ばする感情がうかがえます。根本的に合わない奴と腐れ縁になってしまった感覚です。

 

戦闘中、敵に取り込まれたペッツを助けようとして上記のやり取りがあり、その後カナブンは振り落とされてしまいます。その時、2人は互いに手を伸ばし、しかし触れることなくカナブンは落ちていく。気を失ったカナブンは夢を見ます。ヒジリーとモッさんと、そしてペッツが自分を心配する、そんなお決まりのパターンの夢。夢を見ながら涙を浮かべるカナブンを見下ろすペッツ。彼女は自分とカナブンの髪留めを黙って交換し、物語から退場します。ハル子の言葉にも答えない。カナブンがさよならを言う機会もない。

 

ロケットが火星に旅立った後、いよいよ地球をまったいらにするプラントが起動します。起死回生の一手は、カナブンのN.O.(超空間チャンネル)を使った、地球の表面丸ごとの火星へのお引越し。N.O.は感情の強さと直結している(インチキめいた)力で、ハル子はカナブンに思いの丈を叫ぶよう言います。そこで、カナブンのヒビは現状を維持したいという心の弱さであることが提示され、その上でカナブンはヒビをまるごと肯定してやはりこのままでいたいと勝手なことを言う。そして、ワープホールに彼女たちは引きずり込まれる。

物語のラスト、赤い空の下、オープニングと同じくカナブンの通学風景が描かれます。彼女のスマホはやはりバキバキで、しかしペッツだけがそこにいない。(ハル子は除く)

 

前置きが長くなりました。この赤い空の先には、まったいらになった(とてつもなく大きな)地球が見えます。これを見て、私はカナブンたちは火星ではなく、違う次元にぶっ飛んで、そこに寄せ集めで再現した地球を作り上げて、変わらない生活を送っていると解釈しました。

というのも、入国管理官の神田が、カナブンのN.O.が予想以上に強く、事象の地平線に飲まれることを危惧したからです。事象の地平線の彼方に行ったカナブンたちとペッツは、もはや距離や時間といった概念を超えて、決して互いに観測することができないという結果に行きついてしまった。それはある意味であの世であるし、しかし一方で「よその国」に行った友人の話でもある。「ヒビの入った世界」を肯定したカナブンと、それに乗り切れなかった(残ろうと本当に思えば彼女は残れた)ペッツの、取り返しのつかない決定的な断絶、「大好きだよ」という言葉が虚空に響くだけに終わった。それがカナブンにとっての青春の終わりだった。

そういう無常なエンディングだと思ったんですが、どうやら本筋だとカナブンたちは(ペッツと同じく)火星に飛んだらしく、しかもフリクリの前日譚ではないか(要するにフリクリの世界はカナブンが火星に引っ越しさせた後の話)という見方が有力。それはそれで、いつかカナブンとペッツが和解する余地が残されるので悪くはないのですが、私は徹底的に「仲のいい2人の訣別」が好きなんだなあと再確認することになりました。オチなし。

 

追記:肝心なこと言うの忘れてたんですけど、「フリクリ オルタナ」というタイトルは「フリクリ」と違うやり方のロックンロールとしての「オルタナ」であると同時に、「代わりになるもの」という意味での地球の代替物を作るというオチ、そして「二者択一」という意味でそれぞれ自分が選んだ選択肢の代償に友人を失うという筋にかかっていると思ったんですよ、マジで…