『ニュータウン』通販を始めました
第二十三回文学フリマ東京にて頒布させて頂いた、サークルふかふか団地の新刊『ニュータウン』の通販をこっそり開始していました(ちゃんと告知していなかったのに、買って頂いてしまって焦りが出ました)
既刊『フランネル』『パッチワーク』も含め、上記のページからお買い求め頂けます。
当日、文学フリマ会場にお越し頂けなかった方は、是非是非ご利用ください!
尺が余ったので、リーダーとして『ニュータウン』に収録されている各作品のレビューを行おうと思います。
表紙
表紙は今回も大好きなアカシアさんに描いて頂きました。
「大好き」という言葉は難しいですね。アカシアさんのことは大好きなんですけど、大好きだから依頼している気持ちはなくて「ふかふか団地」を始めるとき、このサークル名の下に、私たちが生み出していく未来の作品たちと、見せてもらったアカシアさんのイラストたちの空気感が重なったような気がして、それが3冊刊行された今も間違いないのないことだったと思っているからこそ、アカシアさんに依頼しているのですね。
余談として、今回の表紙は最初の一冊である『フランネル』と対になるものとなっています。フランネルも「団地」「かわいい女の子」というモチーフを依頼しましたが、今回もフランネルと同様のモチーフで依頼をしています。1点だけ依頼内容が違うのが、フランネルが夕暮れ時だったのに対して、ニュータウンは我々の「新たなスタート」という意味を込めて、早朝の風景となっています。
早朝の街、君と僕以外、まだ誰もいない新しい一日の始まりに、世界を独占するような全能感。なんとなく、スピッツの『ロビンソン』を思い出しました。
エイティーン
「それが僕の尽くした青春の全てであり、僕自身の全てだった」
我々人類は、明かせないものなどないほどに進化し、無粋な技術を発明せざるを得ないほどに退化していた。
死人の魂がエネルギーに変換できるようになった時代。夢を捨てて就職した僕は、どこかで夢を捨てられずにいた。生と死の概念が歪んだ世界で、生きることとは何なのか。
死へと飲み込まれた廃墟で彼が出会ったのは、かつて憧れた女性の霊だった。
今回がふかふか団地デビュー戦となった、さんらいとくんの作品です。
同じく、今回から加入してくれた九十九くんもなのですが、一発目に出してきたもののテーマが、二人ともおおむね「自慰行為について」であったこと(特に二人で相談していた訳ではないらしい)について、何やら強烈な決意と文学性を感じました。二人ともふざけず、真面目に自慰行為に向き合った作品を書いています。それは間違いありません。ただ、今回のニュータウンのテーマは『団地』であることも、同時に間違いないのです。
さんらいとくんは、読ませる文章を書くようになったなと感じました。何目線なんだよという話ですが、前部長として後輩を見守る目線です。
『団地』というテーマに対するアプローチも、私を含めて今回の中では一番考えられていたなと感じました。文中に「トランス状態絶頂激イキセックス」とかいう強烈なパワーワードが出てきますが、なぜか作品は下品にならず、かつて大好きだったAV女優の霊を通じて、真摯に「大人になること」と向き合うお話が書かれています。
やさしい爆弾のつくり方
「ウチの街にもゴジラ来てくれないかなーって思った」
この団地が嫌いだった。
誰かがこの小さな世界を、終わらせてくれる日を夢見ていた。
そんなある日、この場所へ引っ越してきた千春先輩が「この団地を爆破する」 と、言い出して……。
愛宕恵という人間、すなわち私の作品です。=ケイスケなので、それだけでも覚えて帰ってください。
自分の作品について何かを言及することは難しいのですが、何をしても「満たされない」という感情があって、だから何かのきっかけで世界が変わってくれるのを待っていて、それでもその世界を変える一歩を踏み出せない男の子の話です。
劇的なことが起こらなくても、少しずつ手を取り合って前に進んでいけば、いつかその感情と折り合いがつくようになるかもしれない。そういう気持ちで書きました。私からは以上です。
白黒ワールズエンド
「世界が終わることを、今日も願った」
ある日、少年が住んでいる団地のゴミ捨て場に、性的な雑誌が捨てられていることに気付いた。
いけないと思いつつもそれを持ち帰ったところ、同じ団地に住むお姉さん・有紀寧に見つかってしまい、それを脅しの材料に使われてしまう。
悶々としながらも、小間使いとして有紀寧に従い続ける日々。 その中で、少年は有紀寧のことを少しずつ理解していく。
しかし、ある日、二人の秘密の関係に終止符が打たれる出来事が起きてしまう。
ふかふか団地のルーキーその2である、九十九葵くんの作品です。
説明文の「性的な雑誌」という言葉からもはやちょっと面白かったのですが、この作品もさんらいとくんと同じく「自慰行為」が、かなり重要なテーマになっていました。己を曝け出すという意味において、新人二人が一番最初に提示する名刺代わりの作品として、これほどまでにふさわしい題材があるでしょうか。テーマは『団地』です。
さんらいとくんが、熱い想いをぶつけながらもスマートに、ハードボイルドに自慰行為という題材と向き合っていたのに対して、九十九くんは何か押見修造作品のような泥臭さがあって、思春期特有の罪悪感であるとか羞恥心であるとか、そういったものまでも包み隠さずに書ききっていました。
三人称視点で描かれているにも関わらず、極めて内省的な物語であるため、性についての悩みを通して、主人公となる少年については、今回一番人物の掘り下げがなされていたように思いました。
ちなみにこれは私が知っている九十九くんの作風ではなかったのですが、次回以降もこの路線で書いてくれるのか注目しています。
人の住む場所
「三年前、同じ団地に住む幼馴染の生駒菊花は死んだ」
三年経ち、団地は建て替えがはじまり、俺は就活から目を背け、彼女は幽霊となって、だらだらとこの団地で暮らし続ける。
これが俺と彼女の日常だ、少なくとも、今のところは。
どこまでも日常系、どうしたって青春のおわり短編。
私がふかふか団地を発足した理由の一つとして、尾瀬みさきよりも面白いと自分も認められるだけの小説を書けるようになるためというものがありました。
呼びつけにしてますが、学年にして1つ、年齢にして2つ年上のセンパイであり、私が大学時代に一番仲が良く、同時に多大なる影響を受けたお人です。
尾瀬みさきの作品は導入が好きで、読み手の中に根付いている言葉であったり、設定であったり、風景を全く違う解釈で提示し、心地いい低温の語り口で展開していく。私と尾瀬みさきだけは「フランネル」からの皆勤賞なのですが、3作目ともなるとそれはもう作風のようなものになってきています。
今回も私の目指すべき目標であり、超えるべき壁であり、みんなにそれがどれだけすごいものなのかを知ってもらいたい作品だと感じました。
ということで、勝手に『ニュータウン』をレビューして参りました。多分に身内びいきが含まれていますが、ちゃんと面白い一冊になっているとも自負しています。
以下のページから500円でお買い求め頂けるので、よろしくお願いします。